2014年9月5日金曜日

近年のアニメのプロモーション戦略【2】

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プロモーション戦略の王道的手段のひとつに、聖地に観光客を呼び込むというものがある。
アニメファンは現実に存在するその地を訪れることで、疑似的にアニメキャラと同じ景色を見ることができる。これをひとつの売りにすることで、話題性が上がり現地でグッズを売れるアニメ会社と、ファンがお金を落とす地元住民の双方に利益をもたらす狙いである。
――『新世紀エヴァンゲリオン』の箱根や、『らき☆すた』の鷺ノ宮神社などニュースに取り上げられるほど発展したものも少なくない。

これらは、アニメ内の情景描写が現実に忠実であり、ストーリーと土地の絡みが深いほど好まれる傾向にある。現在ではこの聖地効果を見込んで制作されるアニメもあるほどである。
それぞれ例を挙げて、どのようなプロモーションが効果的なのか見てゆこう。


ご当地アニメの聖地化によるプロモーション

2012に発表され、ご当地的話題をさらおうとしたアニメある。
『輪廻のラグランジェ』と『ガールズパンツァー』だ。
これらは同時期ということも含め、比較対象として対極的な結末を迎えたため、考察するにはうってつけである。


『輪廻のラグランジェ』は、2012年1月から放送された千葉県鴨川市が舞台のご当地アニメである。

これは鴨川市を聖地として据えることを銘打った作品であり、各話のタイトルに「鴨川」のキーワードを入れるなど、鴨川聖地化を前面に押し出している。
しかし、制作スタッフの思惑に反し、このプロモーションは失敗に終わった。
原因としては、ストーリーで鴨川であることが活かされていなかったことも挙げられる。
だがそれ以上の要因として、鴨川聖地化を前面に押し出しすぎたことが大きい。放送前から自治体が聖地を謳い、「鴨川」の言葉だけがアニメ内で踊る。そんな制作サイドのあざとさが視聴者の反感を買って全ての印象を悪くしてしまったためである。

結果、NHK『クローズアップ現代』では失敗プロモーションとして取り上げられてしまい、円盤の売り上げも塁平3,000枚程度に留まった。



一方、茨城県大洗町が舞台の戦車アニメ『ガールズ&パンツァー』が2012年9月から放送された。

作品は実際の大洗町の店舗や宿泊施設、交通機関、役場や商工会などの協力・応援を得ており、それらが作品内で忠実に再現され、一部は実名で登場している。
そして、ストーリー内ではこれらの地形を利用した市街戦を展開し、主人公の戦略で勝利を掴み取るシーンが印象的になっている。これらが視聴者の中で、この作品と大洗町が自然に結びついた要因となっている。
放送後、実際の大洗駅にアニメ特設展示場が設けられ、実際に市街戦が行われたスポットを示す地図が配られることでファンの心を掴んだ。
――これには大洗町の住人もファンをもてなすために尽力しており、アニメファンと思われる人には気さくに声をかけるなど、フレンドリーな雰囲気が聖地巡礼のリピーターを増やしたという。

その円盤の売り上げは塁平35,000枚超と大成功を収めている。



また、もう一つ有名な作品を別の例として挙げてみよう。


ご当地アニメとして話題を呼んだ作品で忘れてはならないのが、2011年に円盤塁平30000枚超を記録した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(以下『あの花』)だろう。

ご当地アニメの例に漏れず、舞台となった埼玉県秩父市ではアニメ放送後に様々なイベントが行われた。
その中でも一際目を引いたのが、作中のワンシーンのモチーフとなった龍勢祭とのタイアップだろう。龍勢祭自体は秩父の伝統行事なのだが、2011年開催時には様々な『あの花』グッズの販売、ヒロイン声優のゲスト登場、そしてアニメのシーンを再現した花火の打ち上げなど、ファン大歓喜のイベントとなった。
龍勢祭は2007年の打ち上げ失敗から観客動員数が減少し、存続の危機に晒されていたのだが、この2011年にはアニメ効果で最低でも3000人が訪れ過去最高の観客数を記録した。その人気は、続く2012年開催時にもタイアップが継続されるほどであった。

作中でこの花火の持つ意味が非常に大きく、それが忠実に再現されていたことが一因であると考えられる。秩父市ではさらに、物語の舞台となる秘密基地も再現され巡礼スポットとなっている。
これらご当地アニメの聖地化において重要なことが幾らか見えてくる。

ひとつは、アニメのキャラクターが《そこ》にいるからこそのストーリーを提供できるかどうかである。
その場所だからこと起こり得たイベント、見えていた景色、地形、歴史、文化・・・などがキャラクターに作用し、物語を立体的に、世界観により説得力のあるものに変える。

ひとつは、アニメというフィクションに現実の風景というノンフィクションを加える事で作用する力場を演出できるかどうかである。
キャラクターがが現実世界の風景を歩くとき、そこはその瞬間アニメというフィクションに吸い寄せられる。その地に足を運び、キャラクターと同じ目線で風景を見た時、そこはノンフィクションとフィクションが交錯する、アニメを見た者にしか解らない神秘的な力を発生させるのだ。

そして、商業的戦略の影をちらつかせないということである。
そこに露骨な金の匂いがした時、ファンの温度は急激に冷めてしまう。商売人の掌で踊らされることをファンはよしとしないのだ。
ただし、この項に関しては前述2つをより高い水準でクリアすることにより、許容される場合もある。
――アニメの舞台が聖地化した走りである『エヴァンゲリオン』などは、そもそも聖地化が目的で舞台を箱根に選んだわけではない。あくまで前述2項目をクリアした結果、箱根に自然に人が集まってきたのである。(現在はエヴァグッズ専門店等もできて聖地化に拍車がかかっているが、これは狙って当てた効果ではない)


これら3つが絶妙なバランスで作用し合った時のみ、そこは文字通り《聖地》と化すのである。


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